それぞれのアイノカタチ

日曜日、祖父から電話があった

「ばぁさんをカットしてくれんか？」

うちの祖母

最近まで入院していた

僕はお見舞いには行かなかったけど母は行って

「もう私の事もギリギリ覚えてるぐらいだったから大紀の事はわからんかもしれんね」

なんて言われた

まぁ少しショックだったけど本人を見たわけではないから実感はわかないでいた

そんな祖母が退院したから髪を切りにくるという事だった

きっと付っきりになるだろうからお客様がいなくなる夕方にしてもらった

でも僕はその日、朝から変な気持ちでいた

(入ってきて誰？みたいな顔されたらどうしよう・・・)

こんな事を考えていた

夕方、予約の時間より少し早くやってきた

祖父が手をひいてやってきた

その光景にびっくりしてしまった

うちの祖父というのはそういうのを絶対にやらないと思っていた

昔、祖母が大手術をやったときですら病院にすら入らなかった人だ

そんな人が手をひいている姿を見て変な気分になった

祖母は誰？なんて顔はしなかった

とびきりの笑顔で店に入ってきた

「おばぁちゃん！退院できてよかったね！」

なんて言ったら

「そうですね。よかったです。」

なんて少しだけ余所余所しい感じの返事がきた

(僕の事ってわかるのだろうか・・・)

そう思いながら

「おばぁちゃん、このお店の事を覚えてる？」

なんて聞いた

そしたら

「遠い昔に来た事がある」

って言われた

その言葉に僕はこわくなってそれ以上、聞けなかった

きっと僕の事はもう覚えてないんだと思う

カットの最中、祖母はずっと祖父の姿を追っていた

「ババア！動くな！」

って怒られながらも追っていた

きっともう祖母の世界には祖父しかいないんだと思う

そしてカットが終わるとまた祖父に手をひかれて帰っていった

こんな愛のカタチもある

それぞれ価値観は様々でうちの祖父母の愛のカタチだって間違いではない

ずっと手を繋ぎ続ける愛だってあるし

こうやって時が経ってから繋ぐ愛もある

繋がない愛だってあるし手を離す愛もある

どれも間違いではない

愛のカタチや幸せのカタチは人それぞれ

そういえばこの前、動物園に行った

僕の行った動物園は全国的に

この夫婦のライオンのポスターで有名になったところだ

でもこのオスのライオンはもう今はこの世にはいない

このメスライオンは今、どんな夢をみているのだろう・・・

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