菱田さんの夢が叶う

美容師さんは一度は言われる言葉

「切れるようになったら切ってね」

こんな言葉を家族や友達から言われる

僕には一緒に暮らしていた祖父母がいた

祖父は僕が専門学校の２年の時に亡くなった

なのでカットはしたことがない

祖母はカットデビューしてすぐの頃に亡くなった

２人ともガンだった

祖母は余命宣告をされた

そして僕が働いていたサロンにも来れなくなった

その時にカットを家でしたんだけど僕はその頃、カットデビューしていなかったので知り合いに頼んでカットしてもらった

「練習台でいいよ」

って言ってくれたんだけど怖かったから知り合いに頼んだ

そして末期の頃にようやく僕がカットした

もっと練習しとけばもっと切れたはずなんだけど・・・

切ったのは数回だと思う

でも数回だったけどカットする事ができた

菱田さん

おばあちゃんは菱田さんが３歳の時に亡くなったらしい

だから菱田さんはおばあちゃんの思い出がほとんどないらしいのだ

そしておじいちゃん

２年ぐらい前

うちに来ていただいているお客様でも気付いた方もいたかもしれない

夏ごろに来ていただいたお客様は夕方ぐらいに菱田さんがいつもいなかった事を

菱田さんの予約もとれなかったことを

おじいちゃんが入院して毎日、会いに行っていた

さみしくならないように会いに行っていた

手をずっと握っていて一緒に寝てしまって看護師さんに起こされたりもしたらしい

おじいちゃんは菱田さんが美容師になったことを喜んでいたらしく

「うちの孫は美容師をやっている」

色んな人に話していたらしい

そんなおじいちゃんが菱田さんに

「髪を切ってほしい」

って言ってきたらしい

でもその頃には寝たきりになっていたそうで

「じいちゃん、座れるようになったら切ろうね！」

こうやって言っていたけどその願いは叶わないままになってしまった

「私はずっとそれが心残り・・・」

って言っていた

菱田さんが泣いていた

「私、絶対に当日も泣いちゃう」

こう言いながら泣いていた

もうここで泣いてるんだから間違いないだろ！

と僕は思っていた

菱田さんのおばあちゃんのお姉さんから予約が入ったのだ

当日

聞いていた年齢よりかなり若く見える女性が付き添いの方と来店された

菱田さんのおばあちゃんのお姉さんだ

菱田さんはたくさん話をしていた

今まで知らなかった自分のおばあちゃんの話もたくさん聞いていた

そしてやっぱり泣いていた

たぶん泣き虫なのは３歳の頃から変わっていないと思う

菱田さんは自分のおじいちゃんとおばあちゃんのカットをすることが出来なかった美容師

でも本日、おばあちゃんのお姉さんのカットをすることが出来た

「じいちゃんとばあちゃん、喜んでくれてるよね」

ってまた泣いていた

きっと泣き虫かづこの事を笑いながら見ていると思う

そんな幸せな瞬間に出逢えた

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