頑張れ！頑張れ！

今から８年前の正月

お店を出して最初の正月

お店に祖母から年賀状が届いた

そこには

『夢をありがとう』

って言葉が書いてあった

夢をありがとう？

夢をおめでとうじゃないのかな？って思うが今では聞くすべもない

ただよくカットに来てくれたあとはまわりに

「孫のお店で切ってもらってる」

って自慢してたそうなのであながち“夢をありがとう”は間違ってはいないと思う

祖母は毎週日曜日の朝９時にシャンプーをお店でする為に歩いてきていた

３年ぐらい毎週

ある夏の日、近所のお店から電話があった

「おばあさんが動けなくなっています」

うちの帰りに寄り道をして熱中症になった

そして駆け込んだお店で

「孫のお店に電話してほしい」

って言ったのだ

それからお店に来れなくなった

それから骨折した

それからボケが始まった

それから僕の事がわからなくなった

それからおしぼりを食べようとした

それから倒れた

それから少しよくなって祖父の誕生日に焼き肉を食べに行った

それから次の日にまた倒れた

それが１０月の終わり

１週間ぐらいしかもたないって聞いてから２ヶ月がたっている

今年も終わりになっている

コロナなこんな世の中だからもう会うことは叶わない

うちの母

祖母の娘のうちの母ですらもう会えない

最期のお別れもすませている

コロナな世の中でなかったらこうはなっていないとは思う

きっとうちの母はもっと会いに行っていると思う

コロナってなんだろな・・・って本当に思う

あれは今から２年ほど前・・・

祖母はいつも祖父に連れられてうちのお店にカットをしに来てくれていた

「ばばぁ、早く歩け！！！」

よく祖父に怒られていた

もう僕が孫だとわからなくなってしまった祖母は僕に

「あの人はいつもあんな事を言うんですよ」

って敬語だった

知ってるよ

僕も昔からそれを見てるもん

そして歩く時は

「頑張れ！頑張れ！」

って自分に言いながら歩いていた

誰の事もわからなくなってしまったけど唯一、ばばぁと呼ぶ祖父の事だけ忘れなかった

そして唯一、意識が戻って元気になったのが祖父の誕生日

自分の事をばばぁと呼ぶ人の誕生日だ

この誕生日だって嘘つかれていた

あれは僕が中学生ぐらいの時

家に遊びに行ったら祖母が爆笑していた

「おじいさん、ずっと誕生日、嘘をついてた！」

違った誕生日を教えられていたらしいのだ

数十年前に知った本当の誕生日のその日から意識は戻らない

病院の先生にも生きている事が奇跡って言われたらしい

聞くところによるとうちの祖母ぐらいの年齢の人は頑張っちゃうらしいのだ

「頑張れ！頑張れ！」

って頑張っちゃうらしいのだ

最近では頑張る事が正しいのかよくわからない

ただ僕はもう会うことは出来ないと思うけれど祖父の髪を染めてあげる時などにはきっと祖母が見てくれるって思いながら染めている

僕も頑張る

頑張れ！頑張れ！って頑張る

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